2015年12月14日

夢にうつつに

フルール文庫ブルーライン「囚愛契約」から。
長嶺と高良の想い合って初めての週末のおはなし。
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「夢にうつつに」


 想いが通じ合って、初めて「契約」じゃないセックスをした。
 無我夢中だった。ともに朝食をとった。
 そしてその週末……――

「こんばんはー」
 金曜の夜、高良(たから)は長嶺(ながみね)の家に帰宅する。肩には大きめのバッグをかけていた。中には二泊三日のお泊まりセットが入っている。会社を出ようとしたところを柴田(しばた)に見つかってしまい「ご旅行ですか」と笑顔で問われ、「まあ、そんなところ」とごまかしてここまで来た。
「いらっしゃい」
 今日は玄関先の灯りがついていた。だから長嶺の顔がよく見える。いつも厳しい顔をしている彼の口元が、高良の訪問に緩んでいる。それだけで胸がきゅんとした。
 ――ああ、俺、こいつのことが好きだなあ。
 改めて思う。
「そういえば合い鍵を渡すの、忘れてましたね」
 並んで廊下を歩きながら、そんなことを言われた。
「あ、そうだよな。もらえると嬉しいかな。ここに来ればいっつも長嶺がいると信じ込んでたけど」
「それは……」
 長嶺が言いよどむ。少し耳の先が赤くなっている。
「俺が、あんたが来るときは家にいるようにしてたからですよ。少しでも……一緒にいたいから……」
 口ごもりながらの言葉にずぎゅんときた。
「……そう、なんだ」
「はい」
 なんなんだろう。さっきから落ち着かない。
 どういうわけだか気恥ずかしい。
 リビングに足を踏み入れれば、高良の気持ちを察したのか、長嶺の飼っている小さな魚たちもいつもより多く水槽の中でターンを繰り返している気がする。
「あー、長嶺。俺、風呂に入ってくるわ」
「あ、じゃあ、俺、湯を張ります」
「わかるから平気」
「そうですか」
「うん」
 バスルームに行ってバスタブの栓をし、給湯のスイッチを入れようとしたところで高良はうずくまる。
 なにこれ。
 俺、今、めちゃくちゃ緊張してる。
「いや、だって長嶺だよ。相手は」
 かつて自分の下で何年も働いていて。そんで、一週間の「契約」の間に色々すごいことしてきて。たぶん長嶺にはこの身体のどこもかしこも見られている。
 つむじの場所も、耳たぶの形も、鎖骨のくぼみも、それから。ペニスとか乳首とか臍(へそ)とか。さらには。
 高良は両手で顔を覆った。
 秘められて、奥深い部分。ふだん自分じゃ見えないところ。……――その、中まで。
 ドアが開いた。
「先輩?」
「あ、あああっ! はい?」
 長嶺にいきなり声をかけられて、高良は直立不動の姿勢になる。
「な、なに? なになに?」
「なにって、あんまり遅いから……――。お湯も張らないでどうしました?」
「どうって……。いや、別に、どうも」
 なんだろう、これは。この感情は。
 バスルームの床は洗面所よりほんのちょっと低くなっていて、いつもより長嶺を見上げることになる。そのせいだろうか。それともこの前セックスしたときに抱き合い、溶けてしまったからなのか。なんだか今も自分の中に長嶺がいて、それにくすぐられているみたいだ。
「……先輩?」
 もうだめ。俺、倒れそう。
「どうしたんですか、先輩」
「だって、おまえ、かっこいいんだもん」
「は?」
「知らなかったわ。おまえってすげえかっこいいのな。肩ががっちりしてて。声もいいし」
「何言ってるんですか、あんた。なんか変なもん食べた……――わけはないですよね。風邪でも引いたんですか。いつも丈夫だから気がつきませんでしたけど」
 熱を計ろうというのだろう、長嶺が手を伸ばしながら一歩近づいてきた。高良は思わず一歩退く。しまった。彼がたいそう傷ついた顔になってしまった。
「俺が、恐いですか?」
 長嶺は静かに聞いてきた。高良は戸惑いながら返答する。
「恐くない、けど、恐いかもしれない」
「どっちなんですか」
「なんだかこう、今まではさあ、表面で付き合っていたのに、剥き出しのままになって、全部がびんびんに響いて、止まらなくて。だから恐い」
 風呂に入ったら、そのあとには、また、するんだよな。するよな。だって、俺たちは、お付き合いしている、ちゃんとした恋人同士なんだから。

 ……――恋人。長嶺が。俺の。

「長嶺」
「は、はい?」
「旅行に行こう。今から」
「は? もう夜ですよ?」
 高良は風呂場から出ると、スマホを手に検索し始めた。
「いける。箱根の旅館でレイトチェックインやってるところがあって、部屋あいてるらしい。これから品川駅に出て小田原まで新幹線を使えば今日中に着く」
 スマホで確認しつつ、携帯で連絡をとる。そうしながら、持ってきた自分のバッグのジッパーをあけた。
「長嶺もここに荷物いれて。パンツとシャツと靴下」
「え、そんな突然」
「いいから。さ、行こう」
 長嶺は不審げな顔をしていたが、逆らわずに支度を始めた。

 週末のせいか、品川駅は予想したより賑やかだった。人混みの中に出ると高良は少し安心する。二人して新幹線に並んで座り、席のトレイをセットして、買ってきたものをその上にのせた。
「なんですか、これ」
「やっぱさ、新幹線といったら冷凍ミカンだろ」
「品川から小田原まで三十分もかからないんですけど」
「いいから。がんばって食べる」
 剥いた冷凍ミカンを口の中に入れた長嶺は、冷たいと顔をしかめている。彼は高良に尋ねてきた。
「いったいどうしたんですか。急に」
「記念、ていうか。今日は、その、特別な日だろ」
「特別な?」
「うー」
 高良はそっぽを向いて、窓の外を見る。都心のビル街の夜景が過ぎていく。
「俺史上最高にすごい日なんだよ。だってさ。これからずっと一生、一緒にいようってくらい好きなやつと、今夜、その……ナニをするんだぞ。もう、なんかしないとどうにもなんない気分なんだよ」
 長嶺は不思議そうだった。
「前回は、ノーカウントですか」
「いや、あのときはさ。なんていうのか。もう、とにかく必死で。今日は余裕があるから、だから。なんかさ。なんか」
 顔を背けたままでつぶやく。
「……恥ずかしい……――」
 長嶺がミカンを飲み込んだ音がやけに大きく響いてきた。
「……先輩」
「なんだよ」
「『特別な記念旅行』なんて、なんだかハネムーンみたいですね」
「ば……っ」
 そんなわけないだろうと否定しようとしたが、真っ向から長嶺を見てしまい慌てて目を逸らす。
 なんてことを言うのだろう、この男は。
 それなりに女性経験のある、三十も半ばのおっさんの頬を、あっという間にこんなに熱くしてしまうとは、長嶺は恐ろしいやつだ。
 もっと恐ろしいのは、彼の言うことがそんなに的外れでもないということだ。なるほど、これからともに生きようと決意したカップルの、初めての旅行ならハネムーンだ。
 ……――うーわ。うーわ。
 相変わらず長嶺の存在を強く意識したまま、品川を出た新幹線はとっとと小田原に着いてしまった。



 箱根湯本駅からぎくしゃくとタクシーに乗り、ぎくしゃくと宿に着いた。この遅い時間のチェックインに仲居さんが眠たげな顔をしていたが、心づけを若干はずむと現金なことにしゃっきりと笑顔になった。
 ここの旅館は山の斜面に位置している。窓際には椅子が二つ並べて置いてあり、繁華街の灯りが眼下に見えていた。
 この時間、露天風呂のある大浴場はもう閉まっていて、部屋の風呂に入るしかない。
「一緒に入らないんですか」ととんでもないことを言いだした長嶺を制して、覗いたら怒ると言いおいてから高良は先に入った。これから長嶺が舐めたりさわったりすると思うと、清めずにはいられず、ていねいに洗っていたのでずいぶんと時間がかかった。続いて入った長嶺を、心静かに待つ。
「お待たせしました」
 出てきた長嶺の浴衣姿が決まっていて、高良は見とれる。親御さんにしつけられているのだろう、寝間着の浴衣の着付けが自分のようにだらしないことなどなく、きちっと収まっている。
「長嶺」
 彼の手を引く。
 隣室のふすまをあけると布団が二つ、並べて敷いてあった。片方の上に座る。手招きして、長嶺も座らせる。
「えっと」
 三つ指、人差し指と中指と薬指を肩幅の位置についてみる。それから、なんだか違うことに気がついて、両手の指を揃えるようにしてみた。これだ。
 深々とお辞儀をする。
「ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いします」
 目を上げれば、長嶺が泣きそうにこちらを見ていた。彼はすっと後ろに下がると、高良同様、深々と礼をする。
「こちらこそ。今まで色々すみませんでした。もうあんな乱暴なことは決してしないので、ずっとそばにいてください」
「うん」
 ぎゅうっと想いがこみ上げてくる。
「うん……!」
「キスしても、いいですか」
「あのさ、断らなくてもいいんだよ。おまえのもんなんだから」
 そう言うと、彼はとても嬉しそうな顔をした。
 唇が重なってくる。
 長嶺は、こういうキスをする。ほかの誰ともしたことがないキスだ。高良のことがだいじでしかたなくて、何にも代えられないと訴えているキス。
 神聖なものにするみたいで。こうされると、自分がとても素晴らしくて、だから、大切にしないといけないと思えてくるような、そんな口づけ。
 長嶺の手が高良の背を支えて、緩慢に布団の上に横たえた。
「あのさ、長嶺」
 高良はつまさきで布団をさぐる。長嶺の浴衣の袖を握る。
「あの、俺、変なんだ。さっきから」
「え」
 長嶺に顔をしかめられたので、彼に誤解させたことを悟る。
「そうじゃなくて。具合悪いとかじゃなくて。違う」
 うまく言えない。こういうことは今まで訴えたことがない。
「俺、ずっと自分のこと、デリケートって単語からは一番遠いところにいると思ってたの。でも、今日はなんだかとっても柔らかいものになったみたいなんだ」
 プリンとか、水ようかんとか。スプーンの背でさわるとふるふると揺れるもの。
 恋愛に一喜一憂するなんてばかばかしいことだと笑っていたけれど、こんな気持ちならしようがない。感度がよくて、弱々しくて、へたにさわれば壊れて崩れそう。
 知らなかったんだ。誰かと心から愛し合うためには、こういうところをさらけださないといけないなんて。
「俺ってこんなにシャイで繊細なところがあったんだな。ずっと図々しくてふてぶてしいと思ってたんだけど」
「自分で言いますか」
 そう言って長嶺が口の端をあげるその動きだけで、震えがきている。
 高良は必死の思いで彼に手を伸ばす。
「長嶺。おまえの顔をもっと近くで見たい。見せて。俺の、男の顔を」
 今まで自分は、どうしてこの男と平然と身体を重ねることができたのだろう。
「俺、おまえにときめいちゃってるんだ。どうよ。どう思う?」
「嬉しいですよ? 俺は、ずっとそうでしたから」
 長嶺の手が、高良の頬に伸ばされてきた。彼はこういうときのふれ方を、熟知していた。安心して身を任すことができる。きっと彼自身がもろいところを持っているせいだ。そして今までずっとそこを掻き毟られていたせいだ。おもに、自分によって。
「ごめん、ごめんな」
「え、なんですか。なんであんたが謝ってるんですか?」
「今まで、俺、長嶺のこと、傷つけた。こんな柔らかい部分を、平気で引っ掻いてた。わざとじゃないけど、ほんとにごめん。もうしないから」
 でも、長嶺は傷つけないで、俺に優しくしてと、卑怯な自分は懇願する。

「つらい?」
 キスをしたあと長嶺が聞いてきたので、素直に「うん」と返事をする。
 うん、つらい。感じすぎて、つらい。
 それなのに、長嶺と繋がりたい。その欲望でじくじくしている。下半身が、いやらしい液でぬるぬるに濡れている。
「最初は、脱がないでします? 帯を、とかないで」
 服を着たままするなんて、おかしなことだと思ったけれど、高めるためにふれられるにはあまりに感じすぎていて、うなずいた。膝をこすり合わせて、じれている。自分が、ひとつの性器になってしまったようだった。
「下着だけ、脱がせますから」
「ん」
 腰を浮かせて、長嶺の動きを助ける。その指先がふれるだけで息を止めてしまう。
 長嶺の右手が、腿の外側を撫でた。
 彼の温かな手が円を描くようにして高良の肌をすべっている。その手のひらの皺の線までわかって、それに呼応して自分の身体の一番中心がよがっている。それは性器でもなく、心臓でもなく、ましてや胃でも肺でもなく、だけどそれらを含んだもっと奥にある何かだった。
 ……――ああ。
 わかった。答えを見つけた。ここにあるもの。
 それはきっと「魂」というものだ。そこが長嶺と結ばれたがってるのだ。
 長嶺は、足を開いてとは言わなかった。ただ、彼はじりじりと手のひらを、高良の内腿に向かって這わせてくる。高良の足の合わせ目の湿り気を感じたせいだろうか。ゴクリと長嶺の喉が鳴る。そして指先が、内腿に入り込んできた。
 高良は自分の熱に耐えきれず、合わせていた足を緩める。すかさず長嶺は手で高良の足をこじあけた。
 足指は丸くなってつまさきが敷布をたわめている。しどけなく着物の裾ははだけ、腿の上までをさらしていた。
「ふ、うう」
 高良は必死に布団を掴む。
 これ。俺、身をひねってよがってるんだ。長嶺の指で、ただそれだけで、よがりまくっているんだ。
 いや、違う。「それだけ」なんかじゃない。今までずっと連なってきたものがある。それは長嶺と最初に会ったときからずっと、この心の奥に、地中深くある川のように流れ続けてきた。それが自分を高めている。
 長嶺の想いを知ったときにあんなにも動揺したのはおそらく、それによって引き出される己の感情に気づいたからだ。自分が長嶺をこんなにも愛しく思っていて、深いところで繋ぎ合いたいと願っている事実を直視しなくてはならなかったことにだ。
 深く愛し合うことはとても恐い。それは本音で話すのに似ている。とても鋭く響くんだ。でも、長嶺にならいい。長嶺と結ばれるために差し出すのなら。
 心も、身体も、ぜんぶ、さらけだせる。
「柔らかい」
 長嶺がそう言って、足の付け根を撫でている手の指をほんのわずか、たぶん、数ミリにも満たないほど曲げた。皮膚にめり込む彼の指に、唇から喘ぎが火みたいに熱く漏れる。
 快楽が苦しい。それなのに、ずっとこうしていたい。彼の指に愛され、追い詰められたい。どこまでも。
 ああ。長嶺。
「好き。俺、長嶺のことが好きだ」
『好き』というこの単純きわまりない、たかだか二つの音からなる言葉を彼に伝えるために自分はこんなにも回り道をしなくてはならなかった。長嶺は、最初から、覚悟を決めてくれていたというのに。なんて自分は、だらしなくて弱いんだろう。
 長嶺は、ほんの少し離れることもいとわしいというように、右手を高良の肌に置いたまま、左手でローションのボトルを取ると口でキャップをあけて注ぐ。ローションがつつーと彼の手をすべって塗り込まれる。長嶺の指が、用心深く、慎重に、高良の受け入れ口にふれた。
 とろとろになっている身体は少しも拒むことなく、彼の指を飲み込んでいく。
 長嶺が内側から高良の身体をまさぐる。どうしようもないくらいにくすぐったい。笑ってしまう。多幸感で。
「長嶺」
 高良は彼に訴える。
「俺、おまえの指を、堪能してる。味わってる」
 ちゃぷちゃぷと音が立っている。これはローションの音なんだと、自分の出した液体ではないと知っているのに、愛液のように感じる。いや、ある意味、そうなのかもしれない。
 愛し合うために補う、淫靡な液体。
「先輩、柔らかい。とっても」
 そう長嶺が重ねて言う。柔らかいのは、身体だけではない。この心ももっとふれて欲しくて今まで纏っていた殻から出て彼を待っている。
 くちゅくちゅと音がしている。指が増えて長嶺が真剣な顔で挑んでいる。
「長嶺……」
 芯から乞う。
「俺とひとつになってくれよ」
「ずるいです。そんなに可愛いことを言うなんて」
 なんで。ひとりじゃだめなんだろ。それで。なんで、長嶺なんだろう。
「先輩? 何、笑ってるんですか」
「うん。だって……」
 自分への問いの無意味さに笑ってしまっただけなのだ。「なんで長嶺なんだろう」って。それって、どうして腹が減るのかなってぐらいに意味のない問いだ。ただわかる。本能が言ってる。長嶺のをここに挿れて、二人で混じり合うととっても気持ちがいいよって。出してもらうと満たされるって。
 長嶺の指がゆっくりと引き抜かれた。
「せ、んぱい……!」
「どうした?」
 長嶺の声が切羽詰まっている。布団に突っ伏している腕が、ぶるぶるしている。
「俺、もう、限界……っ!」
 高良は長嶺を引き寄せる。
 長嶺の身体の表面はしっとりと汗ばんでいて、それがどんな忍耐だったのか知る。
「挿れたい?」
「はい……!」
 つらそうに強くうなずく。
 そうなんだ。俺と。この俺と。溶け合いたいんだ。
「いいよ、ほら。来いよ」
 そう言ってやったのにこちらを最大限に慮(おもんぱか)って、性器の先端の丸い形が、優しく、自分の中に入ってくる。
「ん、ん……!」
「先輩の声、えろい」
 それはそうだろう。おまえを求めているんだから。ほかの誰でもない、おまえのことを欲しがってここにいるんだから。
 中に入ってきた長嶺が暴れ始める。二人して布団の海に溺れるみたいになる。出して出して。出さないで。このままここに溺れさせて。必死に、すがるみたいに、長嶺の背を抱く。浴衣の背は心許なく、すべって落ちて、なおも抱き直し掴み直す。
 死にそう。これを、彼を抱くこの手を離したら、溺れて死んじゃいそう。
「先輩、先輩……」
 譫言(うわごと)のように長嶺がひたすらに自分を呼ぶ。
「違う。そうじゃないだろ」
 その名前じゃない。このときばかりは。
「高良……!」
 そう、それだ。
 繋がるときの呼び方だ。ああ、と高良の唇から声が漏れる。
 身体の中心を稲妻が貫くみたいに快楽が太く一直線に走った。
 互いの身体は貪欲で、絶頂が長い。身を震わせながら最後の最後まで、全部を長嶺にあげて。すべてを彼からもらう。
 そののち身体は弛緩した。
 ふうと熱い息を吐く。それからそうっと、絡んだ細い糸をほどくみたいに慎重に身体を離した。
 幼虫がちょうちょになるときには一度溶けてしまうというけれど、今の自分もそんな感じだ。長嶺の「恋人」になるために溶かされてもう一回作り直されたような。
 ようやく、人心地ついてきた。そうなると、互いを隔てるものが気になる。
「これ、邪魔」
 高良がそう言って、帯一本で絡まっている自分の浴衣を脱ぎにかかると、長嶺も同意した。
「そうですね」
 彼はあぐらをかいて帯をほどきにかかっている。
 高良は布を脱ぎ捨てると、座っている長嶺の太ももに尻をのせて抱きつく。
「長嶺。もっとー」
 甘え声を出せば、長嶺が微笑んで高良の顔を見上げてくる。
「ようやく先輩らしくなってきましたね」
「うん」
 高良は長嶺の頬を両側から挟んで、口づけながら舌先で彼の口腔内をさぐる。長嶺の手が高良の背中を抱き、それから次には腰を抱いた。再会した日に玄関先で腰を抱かれ、怯えたことを思い出した。そのときと今との差に思いをはせて、ひどくこそばゆい心地になる。
 また再び、今度は互いを確かめるために抱(いだ)き合う。



 バシャバシャとじゃれるみたいにシャワーを浴びた。それから、まだきれいなほうの布団に、二人してぎゅうぎゅうに入って足を絡ませ合う。
 仲良しのいちゃいちゃのキス。
 長嶺はぼうっとした顔をしている。枕の上でこちらを見て「ああ、ほんとに先輩だあ」と独り言みたいにつぶやいている。
「俺以外のなんなんだよ」
 そう言って高良はうりうりと長嶺の頬に自分の頬をすりつける。
「なんだか、夢みたいで。まださめてないみたいで」
 長嶺がそう言うので、身を離した高良は手を伸ばして、その頬をつねる。
「痛いです、先輩」
 寝っ転がったまま、両肘を突き、顎をのせた高良は長嶺の目を見ながら言う。
「現実もいいもんだろ。しんどいことがたくさんあるけどさ。たまには夢よりすごいことがある」
 高良は舌なめずりをした。
「俺もさー、長嶺があんなふうに俺のこと抱くなんて夢にも思ってなかったもんな」
 それから、と彼に笑いかける。
「自分がこんなにおまえを欲しがる身体になることもさ。想像越えちゃってる」
 責任とれよな、と、高良が茶化したように言うと、長嶺はやけに真剣な顔で、もちろんです、むしろとらせてくださいと言うので、じゃあとらせてやるよと答えながら、繋いで欲しくて布団の中で彼の手をさぐる。


posted by ナツ之えだまめ at 06:08| Comment(2) | 囚愛契約-番外編
この記事へのコメント
楽しく読ませていただきました♪
ラブラブ&ムフフ(//∇//)でトロトロの後日談は大好きですっ(*^^*)
Posted by sugar at 2015年12月15日 00:54
>sugerさん
お返事が遅くなってすみませんでした。

おたがいに完璧にはほど遠い二人だけど、二人でいれば最強だと思います。長嶺のものになった高良は、いい感じに落ち着くのではないでしょうか。これからもとろとろだったり甘々だったりを書き連ねますよー!
Posted by ナツ之えだまめ at 2016年01月23日 13:56
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