2016年01月06日

天気のいい、冬の日だから。

寒いですね。
温かなお話をどうぞ。
「俺が買われたあの夜に。」のそのあとの二人です。
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 五十嵐の家は一軒家だ。東京都のど真ん中なのに、どこの駅からも離れている。そのうえ狭い路地に面しているため、マンションが建てられない。そのせいで、このへんの開発は取り残されているのだと五十嵐は説明してくれた。
「そうなんですかあ」
 深井の声は間延びしている。
「だからこんなにすてきな縁側があるんですねー」
 真冬なのに暖かくて風はない。そのうえあまりに天気がいいもので、ガラス戸を開け放ち、ふたりして縁側に寝ころんでいた。庭の蝋梅(ロウバイ)が、まるで透き通りそうな、作り物めいた小さな黄色い花をいっぱいにつけている。五十嵐は背後から深井の身体を横抱きにして、腹を撫でてきた。
 背中と腹に五十嵐の熱を感じて、くすぐったい温かさに芯まであたためられていく。
「昨日、大丈夫でした?」
 五十嵐の気遣う声色に「なにが」と不思議になって返せば、「その、かなり、無理をさせてしまったんじゃないかなって」。そう言ってから五十嵐の体温があがったのが、背中にじわりと伝わってくる。
「ああ」
 深井はくすっと笑う。
「だって俺、言いませんでした? 『もっと』って」
 昨夜、一週間の空白を埋めるみたいに抱き合った。その中で何度も深井はねだったのだ。もっと、もっと、と。
 もっと奥まで、もっと激しく、もっと続けて。終わらないで。何度も何度もして。抱きしめて。離さないで。
「ああいうときって、ほんとに『もっと』って口にしちゃうんですね。初めて知りました」
 ぴくりと五十嵐の手が止まった。わずかに身じろぎする。それから腹を、彼の指がくすぐってきた。今までとは違う、こちらを窺うような動きだった。
「あ……」
 深井は快楽の予兆にさらされる。五十嵐の、その指で高められた記憶が身体を欲情へと駆りたてる。板塀の向こうに人が通るかもしれないのに。なんて不埒な。だけど、拒みきれない。
 だが、それに水を差したものがある。
 にーにーとか細い声をあげて二人の間に身体を割り入れようとするもの。
 まだ子供の三毛猫だ。
「ごめん、ごめん」
 深井は子猫に謝った。


 この子猫が五十嵐のうちにきたのは、深井が遊びに来ていた雨の夜のことだ。
 縁の下でか細く鳴いているのを五十嵐が保護して獣医に連れて行ったのだが、そのときのことを思い出すと笑いたくなってしまう。
 五十嵐は子猫の必死にあらがいに顔は傷だらけだし、這いずり回ったせいで泥だらけだし、猫を助けようとがあまりに真剣な顔をしていたものだから、女性の獣医さんは悲鳴を上げてドアを閉め、もう少しで警察を呼ばれるところだっただ。
「違います、子猫を見てほしいんです、弱ってるんです!」
 深井が声を張り上げて訴えると「ね、猫?」とようやくインターフォンから返事がかえってきて、五十嵐が手の中でタオルにくるまったそれを捧げると「猫……」と震えながら出てきてくれた。

「だってきみ、顔恐いんだもん」
 そう言いながらも獣医さんは弱っている子猫を保温器に入れ、子猫用のミルクを与えてくれた。
「五十嵐さん、五十嵐さんね。猫ちゃんの名前はなにかな?」
 しばらく考えた末に、深井が提案する。
「三毛丸はどうですか」
 三毛丸というのは、今流行しているアニメ、「忍者三毛丸」の主人公猫の名前だ。
 五十嵐が賛成してくれたので、晴れて子猫は「五十嵐三毛丸」というじつにかっこいい名前になったのだった。


「おいで、三毛丸」
 深井は手を伸ばす。子猫はしばらくこちらを見ていたが、不承不承というように二人の身体から降りて、深井の手のうちに収まった。その上から、さらに五十嵐の手が重なる。体温に抱き寄せられ、さらにこの手に抱いている。
 子猫はごろごろと喉を鳴らしている。
 自分もそうしたい。この日だまりの心地よさを伝えたい。
 三毛丸に習うことができたらいいのに。そう思いながら深井は、とろりと、極上のうたたねに陥っていった。


posted by ナツ之えだまめ at 12:33| Comment(2) | 俺が買われたあの夜に。-番外編
この記事へのコメント
彼等の仕事の合間の、ほんわり。ふかふかの子猫を包む彼等の手の暖かさは、二人の満ち足りた心かしら。いいなあ…
Posted by かみな at 2016年01月06日 21:06
>かみなさん
コメント、ありがとうございます。返事が遅くなって……もう、ぷるぷるなのです。

この二人ってほんわかしてますよね。今日は寒いので、にゃんこがうらやましいです。
Posted by ナツ之えだまめ at 2016年01月23日 13:53
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