2017年12月21日

久方ぶりのその人に。

いただいたお手紙につけた、お礼のペーパーです。
「俺が買われたあの夜に。」より。
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 五十嵐と深井がつきあいだして数ヶ月。
 二人して五十嵐の飼い猫、三毛丸のキャットフードやそのほかの買い物をして、肩を並べて……――正確には身長差があるので肩と頭を並べて帰る。
 深井は、ふんふんふん、と勝手な鼻歌を歌っていて、ときどき調子が外れていたりして、それを隣で聞いているだけで、五十嵐は口元が緩んでしまう。深井のそれは音楽というよりも、彼の中から湧き上がってくる楽しさや心地よさを歌にしているように感じられる。
 こんなにのほほんとしている深井なのだか、夕べの乱れ方はすごかった。
 五十嵐が長いことかけて舐めたり、いじったりしていたので、挿入するときには、あんなに小さなところに、普通よりは大きな自分のあれを入れるのにさしさわりなくなっていた。体内が熱く、彼の肌と同じ温度になっていることを、身体を繋げて知った。二人とも、汗びっしょりになった。
 事後に身体からこてんと力を抜いて、こちらを見て「すごいいっちゃいました。こんなの初めてです」とか言ってきた深井。
 そんなことをされたら、男の征服欲が湧き上がって止まらなくなる。即座に彼をもう一度、布団の上に押し倒してしまった。

 小悪魔か!

 そんな昨夜の情事の記憶を辿って赤くなったり反省したりを繰り返していた五十嵐だったが、ふと、すれ違った青年が、深井を見て足を止めた。
「深井?」
「はい?」
 名前を呼ばれて、深井は振り返る。それからぱーっと明るい顔になった。青年の顔には覚えがある。深井が辞めた工務店にいた男だ。深井の先輩ということになる。
 彼は二人を交互に見比べている。どうして一緒にいるのか、わからないという顔だ。
 なんとごまかしたものか。五十嵐は汗ばんでくるのを感じた。だが、深井はあっけらかんと答えた。
「俺、五十嵐さんとおつきあいしてるんですよ」
「え」
 今度は物凄い高速で、何度も何度も見直している。
「そうなの?」
「はい、そうなんです」
「そうなの?」
 男は、なにかのCMのように「そうなの?」を繰り返している。
「それでいいの?」
「はい」
 深井はへらーっと笑った。
「五十嵐さん、とーっても優しいんですよー。」

 天使か!

 慌てて、深井は彼を紹介する。
「加藤さん、ご存じですよね。会社で先輩だった方です。とってもお世話になりました」
 五十嵐は、彼に会釈する。加藤はかなり粘ったほうだが、それでも深井を置いて辞めてしまった男だ。あまりいい印象は持っていない。加藤は、五十嵐が荷物を持っているのとか、かがんで話をしている様子を見ていたが、ほーっと肩の力を抜いた。
「そっかー。うまくやってるのか?」
「はい。今の会社の人はみんないい人ですよ」
加藤が謝る。
「俺、いい人じゃなかったな。ごめんな」
 深井は首を振る。
「とんでもないですよ。俺に謝罪なんていりません。あのときにはみんな自分のことでいっぱいいっぱいでしたし」
 そして付け足す。
「でも、もし、今度なにかあって、困っている人がいて、加藤さんに余力があったら、その人のことは助けてあげて下さいね」
「……うん、約束する」
「ありがとうございます」
 加藤さんはいい人だ、と、深井の顔が言っている。だが、違う。今、加藤の後悔を溶かし、いい人に変えたのは深井なのだ。加藤は次になにかあったときに、けっして逃げずに助けてやることだろう。
 深井は強い。
 その強さとは腕っ節とか、我を通すとかではない。上等の綿のようにふんわりした、けれどちぎれることのない確かさを持っているのだ。
 それは、見ていて小気味よくもあり、同時に、それによって深井が傷つくのではないかと五十嵐が恐れたところでもある。だが、どうだろう。あれから深井は、なおしなやかで強靱になっている。さらには、その強さをほかの人に分け与えることができる。
 そして自惚れるわけではないが、そのいくらかは自分の、そう、愛、のせいだろう。そう思うと誇らしくなってくる。
 加藤と別れたあとに、またもや響いてくるでたらめな鼻歌。そのリズムが愛しくて、買い物袋を持っていないほうの手で、彼の肩を抱き寄せた。

【俺が買われたあの夜に。-番外編の最新記事】
posted by ナツ之えだまめ at 21:16| Comment(0) | 俺が買われたあの夜に。-番外編
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