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冬の気配がしている。
もう、十月も終わる。
その日は、珍しく貴船が休日出勤で、伊織が夕食当番になった。伊織が作ると、どうしても自分が家で食べていたようなもの、すなわち日本の、なんてことのない家庭料理になってしまう。
けれど、貴船はそういうものを喜ぶから、まあ、いいかと思い直して、味見の終わったカボチャの煮物の火を消した。
チャイムが鳴った。
きっと貴船だろう。
彼は、ときどき、鍵を持っているのにチャイムを鳴らす。迎えに出てもらえるのが嬉しいのだと言う。
しょうがないなと思いながらも、年下の恋人の甘えが少し嬉しい。伊織はドアをあけた。
「おかえり、きふ……」
そこで、動作と声が止まってしまったのは、マントを羽織った黒ずくめの男が、立っていたからだ。プラチナめいた髪と、金に近い瞳。髪はていねいに撫でつけられ、「Trick or Treat?」と訊ねる口元には、牙が見えている。
「もしかして……ドラキュラか?」
それにしても、よく似合っている。コスチュームを通り越して、本物のドラキュラ伯爵が降り立ったかのようだ。
「今日は、うちの会社でハロウィーン・パーティーだったんですよ。社長が、こういうのが好きなのでね」
そう言って、貴船が入ってきた。
ドラキュラ伯爵がここに立っているという光景が、なかなかシュールだ。
「おまえ、そのかっこうで、電車に乗ったのか?」
目立つなんてものじゃなかっただろう。
「まさか。ここまで、車で送ってもらいましたよ」
「悪いな。菓子はないんだ」
「そうですか。じゃあ、いたずらしますね?」
「いたずらだけでは、いやだな」
そう言ってから、ふいに恥ずかしくなってしまった。
「なにを、言っているんだ。俺は」
「耳が、赤いですよ」
貴船の指が耳たぶにからむ。
「いただきますね。どんな菓子より、甘い、あなたを」
そう言って、貴船の指はゆっくりと顎まで動き、顔を上向けられ、唇が重なった。
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